橘玲 - 大震災の後で人生について語るということを読んで,人生について考えた
新刊『大震災の後で人生について語るということ』,読みました.
著者はこう書きます.
P.207
私がこれまで語ってきたことが絵空事であるのなら、その絵空事を徹底して突き詰めることでしか、その先に進むことはできないのではないかー。
3・11後,まるで天啓を受けたかのように2週間で書き上げられた本書は,橘玲の集大成と言える内容です*1.
私は橘玲氏の大ファンで,ゴミ投資家シリーズ/小富豪シリーズ/海外投資を楽しむ会,そして橘玲名義作品に共通する『人生や幸福の7割は経済的な事由に左右される.世間の常識に疑問を持ち,経済合理性を追求することで経済的な自由を獲得する』という姿勢にたいへん共感してきました.特に,橘玲名義作品は全て読んでおり,一部の作品にはたいへん大きな影響を受けています.
本書には特段に新しい主張があるわけではありませんが,2つの大きな意義があると思えます.
1つは,これまでで最も研ぎ澄まされ,過去の橘玲作品のエッセンスが詰まったものであること.つまり,以下の事実認識です.
Q1 持ち家か賃貸か
→「持ち家は賃貸より有利」だと断定することはできない.
頭金を元金としレバレッジをかけた,ハイリスク・ハイリターンな投資である.
Q2 日本的雇用 -定年まで会社が面倒みてくれる
終身雇用,日本的雇用,老後は退職金で安心.大企業に入れば会社は安定しているし退職金や年金で有利
→人的資本を会社に集中投資(サラリーマン債券)しており,会社が潰れれば取り戻せない
Q3 円預金はもっとも有利
投資といえば日本株,安心なのは銀行預金
→日本株について.戦後からバブル崩壊までのパフォーマンスは素晴らしかったが,バブル崩壊後はむしろ最悪
Q4 年金があるから老後は安心
→個人資産を加算しても,日本国は債務超過.
2つめは,上記について3・11後の視点から捉え直すことの有用性が,ますます向上していることです.
橘玲作品を読み,その実現可能性は必ずしも高くない内容をフィクションとして愉しむという姿勢を捨て,ツールとして利用するべきときが近づいているということです.
驚くべきことは,むしろ,過去の日本的価値観のほうが絵空事に見えることではないでしょうか.
上述Q1〜Q4に倣ってまとめます.
(下記は,本から引用するだけでなく,私の解釈で勝手に書いています.)
A1 持ち家のリスクを認識せよ
生物学的な観点から,人間が『賃貸よりも持ち家が一段上だと考えることは自然』であるが,リスク耐性の低い個人は,年収の何倍ものハイリスク投資を避けるべき.
また,良い条件は揃わないかもしれないが,社会状況を見極め,割安な賃貸物件を探すことは可能である.
A2 日本的雇用からの脱却も,そう悪いことばかりではない
整理解雇の要件緩和や定年制の廃止で,グローバルスタンダードの雇用環境への移行は,いずれどこかのタイミングで起こる.
クリエイティブ・クラス/バックオフィス/マックジョブに収斂していく雇用環境では,日本人のリスク回避志向から(権限もない代わりに責任もない)バックオフィスという選択もありうる.
A3 円資産への集中投資から.国際分散投資へ
現代ポートフォリオ理論から,世界市場と同一比率で分散投資することが有用.
ETFが手数料が安く,かんたん便利.
A4 年金
(こうすればいい,という策はない)
社会保険制度の大幅な変更が必要になるが,政治的に困難.年金はあてにしないこと.
個人的には,社会保障の大盤振る舞いは,国債暴落・インフレ到来によってはじめて是正されるのではないかと考えています.
最後に.
私は現在,『経済的自由financial independenceを獲得すること』だけを目標に(明らかに向いてない)サラリーマンとして,クビにならない程度に仕事を続けています.正直に申し上げて,「これでいいのか?」と思うことは多々あります.
個人的に,ニート,フリーター,派遣社員,正社員と経験し,「経済的事由が人生の土台を規定する」という言葉の意味はわかっているつもりです.
本書を私の人生の今後の指針とし,これからの自分の人生で存分に足掻いてやろうと,決意を新たにしました.
以下,目次
<お金とリスクの経済入門>
斜陽の国の明るい人生設計
PART1 日本人の人生設計を変えた四つの神話
1 日本を襲った二羽の「ブラックスワン」
2 不動産神話 持ち家は賃貸より得だ
3 会社神話 大きな会社に就職して定年まで勤める
4 円神話 日本人なら円資産を保有するのが安心だ
5 国家神話 定年後は年金で暮らせばいい
PART2 ポスト3・11の人生設計
6 伽藍からバザールへ 人的資本のリスクを分散する
7 世界市場投資のすすめ 金融資本を分散する
番外編 なぜふつうのおばさんが億万長者になるのか?
8 大震災の後で人生について語るということ
*1:エッセンスが主なので,より具体的に知りたければ個別の書籍をあたることをオススメします